本研究で対象とするKCNQ1遺伝子は、日本人において重要な2型糖尿病関連遺伝因子であるが、疾患に関連する一塩基多型(SNP)が、2型糖尿病発症リスクを高めるメカニズムは、依然不明である。そこで本研究では、疾患感受性SNPの機能的意義を、分子レベルで解明することを目的とする。 平成22年度には、ナノビーズ技術を用いて、KCNe1遺伝子のSNP領域に結合する新規因子(以降、KSBFs)を単離・同定し、ノンリスクアリルとリスクアリルとにおける結合の差異について確認した。平成23年度には、KSBFsは、SNP領域がノンリスクアリルを有する場合にのみ、その領域を介した転写を促進できることを明らかにした。さらに、このSNP領域とKSBFsとによって発現が制御される遺伝子を明らかにするため、KCNQ1遺伝子およびその近傍遺伝子の発現変動について解析を行った。平成24年度には、クロマチン免疫沈降アッセイにより、KSBFsは、細胞内においてもアリル特異的に、このSNP領域に結合することを明らかにした。さらに、このSNP領域とKSBFsとの制御下にある遺伝子について、DNAマイクロアレイを用いた網羅的解析を行ったが、同定するには至っていない。また、公開されたENCODEプロジェクトの結果から、これまで解析を行ってきたSNP領域以外にも、遺伝子発現制御に関与する可能性が高いと予想されるSNP領域が見出されたため、追加解析を進行させている。 疾患感受性SNPが疾患発症リスクを高めるメカニズムを解明するには至っていないが、KCNO1遺伝子領域における疾患感受性SNPが、DNA-タンパク質問の親和性を変化させることを明らかにし、また、その領域にアリル特異的結合する因子が、遺伝子発現制御に関与しうることが示されたことは、疾患感受性SNPの機能的意義の解明へ向けた大きな前進であり、意義深いと考えられる。
|