研究概要 |
インドール-3-酢酸(IAA)は、植物の生長制御に関わる植物ホルモン(オーキシン)の1種である。IAAの細胞あるいは組織内濃度は、異化代謝および植物体内の輸送のバランスによって調節される。IAAの代謝は主に酸化代謝・抱合体形成・脱炭酸反応によって行われているが、中でも酸化代謝が植物におけるIAA代謝の中心的役割を果たしている。酸化代謝は不可逆的であり、代謝物はオーキシン活性を失うことから、この代謝反応はIAAの不活性化に関わるものと考えられている。このように、酸化代謝はIAAの濃度調節にとって重要な役割を担っているにもかかわらず、酸化反応に関与する酵素など、詳細なメカニズムについてはほとんど明らかにされていない。そこで本研究では、IAAの酸化代謝反応に関わる酵素の機能解析および同定を目的として、IAA酸化反応に対する阻害活性を示すことが報告されている化合物(2,3,5-triiodobenzoic acid, TIBA)を用いた酵素活性の評価を行った。 これまでに確立している質量分析計を用いたIAA酸化代謝物の迅速測定法により、まずイネ植物体におけるTIBAによる酸化反応阻害活性を調べた。その結果、主要酸化代謝物であるOxIAAの量はTIBA処理によって変化しなかった。植物体においては薬剤の透過性などが影響して、活性を正しく評価できていない可能性が考えられたため、イネ根部分からIAA酸化酵素を含む粗抽出液を作製し、そのIAA酸化反応に対するTIBAの効果を調べた。その結果、やはりTIBA処理によってIAA酸化反応は阻害されず、TIBAは酸化阻害剤としては作用しないことが示された。一方、この粗酵素液を用いたIAA酸化反応は、植物体を用いた方法とは異なり数時間で測定が完了することから、IAA酸化阻害剤の迅速スクリーニング法として有用であることが分かった。
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