本研究では,フラボノイド生合成遺伝子の発現を誘導する因子の解析を中心として,共生窒素固定におけるフラボノイドの役割を解明することを目的とした. フラボノイド3-ヒドロキシラーゼ1(FHT1)遺伝子プロモーターの下流にレポーター遺伝子β-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を連結したベクターを導入した組換えミヤコグサを作製した.23年度に作製したフラボノール合成酵素1(FLS1)遺伝子プロモーターとGUS遺伝子を導入したミヤコグサと共に,GUS遺伝子の発現を指標に両遺伝子の誘導条件の解析を行った.FHTとFLSは共にフラボノールの生合成に関与するが,FHTは縮合型タンニンの生合成にも関与する.これら形質転換植物に根粒菌Mesorhizobium lotiを接種したところ,両者とも感染初期の接種2日後に根全体で弱い発現が見られたが,フラボノールがオーキシンの極性輸送を阻害することで根粒原基形成を誘導するという仮説から予想される発現パターンは見られなかった.感染14日目には,FHT1は根の根粒着生部位付近,FLS1は成熟根粒で強い発現が見られ,両遺伝子が成熟根粒の形成・維持においてそれぞれ異なる重要な役割をもつことが示唆された.交付申請書の研究実施計画では,上記遺伝子発現に対するフラジェリンの影響を調べる予定であったが,上記の結果から,これら遺伝子がフラジェリンの関与が想定される感染初期には重要な役割を持たないことが示唆され,同時にフラボノール以外の代謝産物の関与が予想された.そのため当初の計画を変更し,FLS1遺伝子および縮合型タンニン生合成に必須のロイコアントシアニジンジオキシゲナーゼ(LDOX)遺伝子を過剰発現または発現抑制させた毛状根を作製し根粒菌を接種した.その結果,フラボノールと縮合型タンニンが一部機能を互いに補って根粒形成を正に制御することが明らかとなった.
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