遺伝情報の正確な発現は、核酸塩基間の特異的な水素結合形成によって実現されている。アミノ酸とmRNA上のコドンを対応させるtRNA分子には、その精度を保つために修飾塩基が使われている例が多数知られている。大腸菌のtRNAIle2は、アンチコドン1文字目のCにリジンが導入され、Lysidineになることによって、アミノ酸受容能をMetからIleに、コドン認識能をAUGからAUAへと変化させる。本研究では、このユニークな性質を裏付ける構造基盤―すなわち、Lysidineが、どのような塩基対を形成するかを明らかにし、コドン認識能を拡張するメカニズムの構造的情報を得るために、リボソーム上でtRNAIle2がコドンと塩基対を形成している複合体のX線結晶構造解析を行うことを目指した。本課題においては、高分解能データが期待できる70Sリボソームの調製方法を確立し、結晶化実験の各段階における検討すべき条件の絞り込み、ハーベストにおける結晶へのダメージの軽減方法の確立、更に測定条件における高分解能データ収集のためのストラテジーを確認することができた。 (1)リボソーム調製方法:mid-late log phaseの菌体を連続式圧力破砕装置に、800-1000barで3サイクルかける。0.5M KClと1.1M sucroseを含む緩衝液でリンスした後、疎水クロマトグラフィーとショ糖密度勾配遠心によって精製する。 (2)結晶化条件:KSCN、PEG20Kと550MMEを沈殿剤として用いて、2種類のPEGの混合比とpHでグリッドにする。 (3)ハーベストは、母液のPEGの濃度が少しずつ上がるように、段階的に時間をかけて行う。 (4)テスト測定で反射がエッジに達している結晶を選別し、最初のイメージから10度で反射数が70%になる程度のdoseで測定を行い、複数の結晶を使って、十分な角度のデータを収集する。
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