始めに、本研究課題が追加採択されたのは10月であり、本研究の主要な研究時期である春から夏の時期(一時的水域で魚類が繁殖を行う時期)を未だ迎えていないので、平成22年度に得られた成果は極めて断片的なものであることをことわっておく。 春から夏にかけての降雨によって形成される「一時的水域」は、多くの魚類によって繁殖に利用されており、淡水魚類群集の多様性を創出する機能を有している。一時的水域の環境特性と魚類による利用価値を評価するためには、定点の長期モニタリングを行う必要がある。そこで、一時的水域が形成されることが想定される調査地点を8地点設定し、2010年12月から月に2回の水質調査(水温、要存酸素、導電率、濁度など)を継続してきた。今後の繁殖期に向けて、調査を継続し、一時的水域の環境特性を明確にして行く。 一時的水域は単に繁殖の場として利用されるだけでなく、そこに多くの魚を誘引し、生理的な成熟を誘導する因子の源にもなっている。しかし、その因子が何であるのかは不明である。これを明らかにするには、一時的水域を繁殖に利用している魚種についての生殖生理に関する情報を蓄積し、実験的な解析を行う必要がある。これまでにタモロコとドジョウについては1年を通した生殖腺の成熟状態を調べ、生殖周期を明らかにできた。このうちドジョウについては、5月から8月まで長期間の繁殖期を持ち、この間に通常の河川内では採集成熟した個体が得られなかったことから、この間に降雨などによって一時的水域が形成された際に、そこに入って最終成熟し、産卵を行うことが推定された。一方、タモロコの繁殖期は5月から6月と短いことが明らかとなった。このことから、魚種によって繁殖期の長さが異なり、一時的水域の利用価値も異なる可能性が示唆された。
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