侵略的外来種アルゼンチンアリは、在来アリや多くの在来生物と在来生態系に著しい悪影響を及ぼすとされているが、アリ以外の生物に及ぼす影響は不明な点が多い。そこで、広島県廿日市市周辺の公園において、地上歩行性節足動物類と管住性ハチ類、アリ共生型シジミチョウ類に対する影響を調査した。また実験室内で、アルゼンチンアリおよび在来アリが主要な地上歩行性動物に対して示す行動や、アリ共生型シジミチョウ幼虫に対する行動を観察した。主な結果は以下の通り。(1)オカダンゴムシや多足類に対する攻撃的な行動はいずれの種でも少なく、むしろアリ類の方がこれらを避ける傾向があった。モリチャバネゴキブリやエンマコオオロギ幼虫は、素早く逃げることでアリからの影響を回避しているようだった。(2)竹筒トラップを設置し管住性ハチ相を調査したところ、ハチが営巣していたトラップ数は侵入地と未侵入地間で明らかな差はなかった。侵入地で防蟻剤によってアリを除去した場合は、除去しなかった場合よりもわずかに営巣数が増加し、軽微ではあるがアルゼンチンアリの活動が管住性ハチ類の営巣活動を抑制している可能性がしめされた。アルゼンチンアリの樹上活動個体数が多く、竹筒上をアリが歩き回ることで営巣を妨害しているようだった。(3)カタバミを食草として利用するヤマトシジミの幼虫の摂食跡の量を侵入地と未侵入地間で比較したところ、明瞭な差はなかった。実験室内で各種アリ類が幼虫に対して示す行動を観察したところ、トビイロシワアリ、クロヤマアリ、キイロシリアゲアリは、幼虫の体表を探るような行動を頻繁に行い、幼虫が分泌物を出すとすぐに反応した。一方、アルゼンチンアリは幼虫に対してアンテナでふれる行動は頻繁にしめすものの、ごく短時間で、分泌物に対して一切反応しなかった。また、幼虫を捕食するような行動は一切示さなかった。蛹に対する各種アリ類の行動も同様だった。
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