メキシコの歴史のなかで大きな出来事であった、メキシコ革命(1910)と、その時代は、メキシコが近代国家として確立してゆくことに、直接的、間接的に、関与した。当該研究は、独立記念日などと並んで、この歴史的な出来事が、公共建築や儀礼や祭り、歌などを媒介として、集団的な記憶のなかで、「メキシコ性」の形成の一翼を担うようになる諸相を、明らかにしようとするものである。具体的な研究対象の中心となったのは、メキシコシティ地下鉄の構内のデザインや、取組みであった。壁画の製作者や、壁画のモチーフの分析から、以下のことが明らかになった。駅構内の壁画などの製作者には、革命後の熱気を帯びた時代に隆盛をみた、壁画運動の担い手たちの後継者がいるだけではなく、「元祖」壁画運動の巨匠たちが現代の壁画のなかに描きこまれたりする事例があることから、時代に大きな隔たりがあるにもかかわらず、これらふたつの壁画の間には、一定の継続性を見出すことができる。第二に、アメリカにいるメキシコ人たちが発展させた、自己表現の手段であるとともに社会性をも帯びたチカーノ・アートと、地下鉄の壁画は、時代的な重なりがありながら、性格はかなり異なるものである。PRI政権が下野し、中道保守政党PANが政権についた時代には、一部の旧来の駅名に併記する形で、「透明性」のような、非革命的な価値・概念が付加されることになった。一方、駅構内での読書プログラムのような、国民を啓蒙するためのプログラムが展開している。これらのことは、メキシコシティの地下鉄が、政府が国民へアクセスする、メディアとしての機能を持った公共空間と認識されていることを傍証している。
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