本研究は、ミャンマーにおける国民統合の過程とそこに含まれる問題を再検討することを目的とする。その手法としては、ビルマ族仏教徒中心の国民国家建設の中で、結果的に「国民」の最も周縁に置かれてしまったムスリム住民の実体験や彼らの持つ資料を詳細に検討する。平成24年度はミャンマー国内で国民統合とも絡む大きな動きがあったので、民政移管後の現状を分析することとした。 1.平成24年5月末に、ミャンマー西部ヤカイン州において、女性に対する暴行事件をきっかけに、イスラーム教徒であるロヒンギャ族と仏教徒ヤカイン族の対立が激化した。時の経過とともに、ミャンマー全土で反ムスリムの動きにつながり、暴動が複数回発生した。ミャンマーでは報道規制が緩和され、インターネットを通して情報を得られるようになったので、そこからミャンマーでの動きを追い、政府、仏教徒僧侶、仏教徒市民の考え方を分析した。 2.上記1で示したような民政移管後の反ムスリムの動きに関し、現地でのインタビュー調査および資料収集を行うため、ミャンマーでの現地調査を三度に分けて実施した。これまでに比べればかなりの報道の自由が認められ、情報が多く流通するようになったが、本研究の対象である「ビルマ族仏教徒中心の国民国家のなかで周縁に置かれたムスリム住民」からすれば、情報についても仏教徒視点での偏向報道が多いという不満を持っていることがわかった。これに関連して、実際には報道されていない政府暴動調査委員会の調査での現状や、イスラーム教徒をかくまった仏教徒に対する私的制裁などについてもインタビューでの証言や資料を入手することができた。 研究最終年度に大きな動きがあり、現在も状況は落ち着いていないため、今後も引き続き注視し、分析を加えていく所存である。
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