本研究は、(1)メコン川地域、特にラオスを中心に、近年活発な国境を接する隣国との「人の流れ・交流」の関係性に着目し、児童就学の阻害要因を明らかにする。社会主義国ラオスが持つ「教育行政」「地域コミュニティ」「村落経済」の特異性を隣国との比較調査分析をもって明確にし、それらと就学問題、就学阻害要因が形成する構造を探る。(2)就学促進のために必要なメコン地域における教育協力の可能性を探る。従来の国際機関や国際NGOといった単独のアクターだけでなく、それらの相互関係性や、南南協力を視野に、メコン地域の効果的な教育協力ネットワークの構築について調査を実施する。以上2点を目的としている。 本年度は、特にラオス・タイの国境地帯に調査拠点を設定し、3年の継続調査を実施するための基礎情報の収集を行った。具体的には、「ラオス:サワンナケート県において社会主義コミュニティと就学の関係性、就学のための教育協力ネットワークの実態調査」、「ラオスからタイ側への『人の流れ』についての実態調査」、「タイ:『越境児童』『無国籍児童』に関する基礎統計、基礎資料の収集、教育協力ネットワークの実態調査」である。サワンナケート県現地調査の成果として、まず、「ラオスからの労働移動の多くが不法就労の形で行われており、その場合、当局の摘発を恐れ、不当な賃金で労働を強要されたり、人権侵害にあっても訴えることができないラオス人越境移民労働者が少なくないこと」、「特に初等教育修了程度の児童による不法越境・不法滞在のケースが多いこと」、また、「サワンナケートでは越境人身売買ないしヒューマン・トラフィッキングもラオス国内で一番多いと報告される地域であること」、他方、「多くの越境移民労働者を受け入れる側のタイでは、このような移民による犯罪や麻薬・エイズ問題が大きな社会的問題となっていること」など統計的にも明らかになった。
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