エチオピアにおいて、2012年8月5日から17日までの期間、HIV感染症問題に関する現地調査を実施した。昨年度に引き続き、南部州グラゲ県においてHIV不一致カップル(一方がHIVに感染しており、他方が感染していないカップル)に関する調査および、HIVの影響を受けた世帯の生計を支えるための地域住民の取り組みについて調査を行った。 本年度の調査においては、HIVで夫を失い、自らも陽性者である女性の生計や再婚、出産といった問題に、特に焦点をあてた聞き取りを行った。エチオピアでは近年、治療薬の普及によりHIV陽性者の余命が顕著に改善している。しかしHIV陽性の女性は、性交渉においてはほかの地域住民に対して、また出産においては子に対して疫学的なリスクとなり得るため、地域社会から孤立しやすい。 しかし本調査においては、グラゲ県において、HIV陽性者である女性の世帯が持続的な生計を営むことができるよう、地域住民が食料生産に必要な労働力を提供している事例があることが明らかになった。また地域で活動するヘルスワーカーのなかには、陽性者の結婚や出産に必要な知識を積極的に提供する者もいることが明らかになった。これらの事例は、HIVに感染した者と感染していない者とが、地域社会において共存するための倫理的な関係について考察する上で重要な意義があると思われる。 なお本研究の成果については、日本社会医学会および国際エチオピア学会において報告をおこなった。さらに和文論文1編、英文論文1編を執筆し、学術誌に投稿中である。
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