本研究は、日本とラオスの大学研究者が、農村住民と連携協働し農村開発に当事者として参加する実践型地域研究手法で実施した。 本年度は、東南アジア研究所実践型地域研究推進室とラオス国立大学農学部ラオ伝統農具農民博物館の研究者が、ビエンチャン特別市サイタニー郡タチャンパ村「集落民俗文化資料館」活動を伝統文化・歴史の保存を通した「農村開発実験」と位置づけ、その活動に積極的に実践参加し課題に取りくむとともに、農学部博物館の資料の分類分析を行った。具体的には、研究代表者の矢嶋が、2012年10月(33日間)と2013年1月(15日間)の2回現地において聞取り調査、村人との協働によるPLA(参加型学習行動法)による参加型ワークショップを開催するとともに、資料整理等をラオス国立大学農学部研究者と協力して行った。研究は終了したが、現在も農学部関係者が「村人の口述による村の歴史」と「農学部博物館所蔵資料カタログ」の作成を継続しており、終了し次第公開する。 本研究では、村人の語りから、1965年に戦火を逃れて以来着の身着のまま数回の移住を余儀なくされた後定住したタチャンパ村の先駆け住民たち(多くは黒タイ族)が、他民族や他村の人たちと混住を繰り返しながら現在の村を造ってきた経緯が明らかになった。世代が移るにつれて歴史や伝統を伝える年配者の多くが亡くなり、民族のオリジナルな文化や伝統的道具類だけでなく言葉も変化し、村の新しい伝統と歴史が生まれつつある。 仏教とアニミズムなど宗教の違いに加え多民族が混住するラオスの村が、互いの行事や風習を尊重し参加することで成り立っていることが村人を通して浮かび上がった。ほとんど自己主張しないことが、村で一緒に暮らすためのラオスの人びとの知恵である。多様化する社会においてそれぞれの違いをことさら強調する現在の比較研究に対して、ラオスの村人たちの「知恵」が一石を投じている。
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