2010年度は軍政期人権侵害に関わる2つの記念行事と失効法をめぐる状況を中心に、ウルグアイの政治社会・市民社会の歴史認識の分裂状況を新聞報道から分析した。 2009年11月の大統領選挙決戦投票で当選した拡大戦線のホセ・ムヒカは元ゲリラであり、軍政時代は軍の「人質」として収監されていた。2011年3月1日に発足したムヒカ政権は、軍政期人権侵害問題については基本的にバスケス前政権(拡大戦線)の政策を踏襲し、強制失踪被害者の遺体を積極的に捜すことはしないかわりに失効法(免責法)を適用しないで訴追の道を開いている。しかし、1.記念行事については前任者と異なる態度も見せている。被害者側が始めた『沈黙の行進』は2010年に初めて、被害者家族の会が大統領府から参加を呼びかけるラジオ放送をし、ムヒカ自身も短時間ながら行進に参加したことで行事は公的に認知されたといえる。一方でバスケス前大統領が始めた「ヌンカ・マスの日」は招待者もなく簡素に行われ、ムヒカはラジオでの参加呼びかけの中で異なる意見が国内に存在することを認め、寛容と共存・共生を呼びかけた。 2.失効法について。失効法は2009年9月には最高裁で違憲判決が出ているものの、過去の合憲判決は覆せず判決が確定したものには効力がない。ウルグアイでは事件ごとに違憲判決を求めねばならない。また2度の国民投票で無効化が否決されている。しかし米州人権裁判所でウルグアイの失効法に対して米州人権条約違反の判決が出る見通しとなったため(2011年3月25日判決)、拡大戦線は失効法を事実上無効にするため、失効法解釈法を提案した。しかし失効法を成立させた伝統政党(コロラド党と国民党)は解釈法に反対であり、世論調査でも意見が割れている。記念行事と失効法の現況は軍政期人権侵害をめぐるウルグアイの歴史認識が依然、分裂していることを示している。
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