①移行期正義、ポスト移行期正義にかかわるこれまでの研究成果を生かし、日本平和学会『平和研究』第38号「体制移行期の人権回復と正義」(早稲田大学出版部、2012年5月)の編集責任者を清水奈名子宇都宮大学准教授とともにつとめ、巻頭言「多様化する移行期正義研究の軌跡」で移行期正義にかんする研究状況を概観した。 ②ウルグアイで、1973年に民主政を崩壊させたクーデターについて「軍と(治安を悪化させた)ゲリラの双方に責任がある」とする「2つの悪魔」説がいまだに生き残っている理由のひとつとして、元ゲリラが合法政党に転化し大成功を収めたことがあげられる。 「ウルグアイにおける歴史の政治的利用:軍政の責任をめぐって」『法政理論』第45巻第3号(新潟大学法学会、2013年3月)では、先行研究にしたがって元ゲリラの合法化の軌跡をたどるとともに、2009年の大統領選挙(元ゲリラが左派連合の大統領候補であった)ならびに同時に行われた失効法無効化をめぐる国民投票で、伝統政党の政治家がどのように「二つの悪魔」説を政治利用したかを例を挙げて紹介した。なお、失効法は最高裁で違憲判決が出た(米州人権裁判所でも米州人権条約違反とされた)が、一方で失効法の効力を事実上無力化する「人道犯罪の時効不適用法」には2013年2月に最高裁が違憲判決を下しており、法的に矛盾する状態が生じている。研究期間終了直前であったので、米州人権裁判所の判決とウルグアイ最高裁の2つの判決の関係を解明しえていない。また、こうした裁判所の矛盾するシグナルは歴史的記憶の生成や「二つの悪魔」説の政治利用にどのような影響を与えるか。今後の研究ではまずこれらの点を明らかにしたい。
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