本年度は、セネガル、マリ、モーリタニアに関する文献研究を継続すると同時に、現地研究者とのメール等による情報交換を通して、アフリカ諸言語による教育、出版等について、最新の情報を入手することに務めた。文献研究に関しては、とくに、植民地期のフランス植民地政府による現地語政策、およびキリスト教宣教団や派遣教師などによる現地語研究に関して、パリ国立図書館、国立民族学博物館図書館において、所蔵資料の閲覧、複写を行い、植民地期から現在にいたるフランス語と現地語の関係を具体的に跡づけることを試みた。 セネガルについては、初等教育導入段階におけるセネガル諸言語の使用は、昨年度の調査によって確認した大幅な遅れが続いており、状況がすみやかに改善されるような動きはみられない。モーリタニアにおいても、アラビア語化政策の中で、アフリカ諸言語を母語とする住民にとっては、むしろフランス語教育が全面的アラビア語化への防波堤となっている状況は変わっておらず、アフリカ諸言語による教育の実質的な進展は見られない。マリについては、昨年来の混乱のために現状の把握が困難な状況が続いているが、現在の状況下でアフリカ諸言語による教育の進展が見られるとは考えられない。 植民地期の現地語政策、現地語研究に関しては、19世紀から20世紀初頭にかけて、植民地行政府によるフランス語教育がはなはだしく限定的なものであった一方で、王政復古後イギリスから返還されたセネガル植民地に派遣された最初のフランス語教師ジャン・ダールが現地語による教育を試みたことや現地に派遣されたカトリック宣教団が現地語の辞書を作成するなど、現地語に対する関心が第一次世界大戦後、植民地への介入が本格化する以前には現地語への関心が高かったことを、植民地行政官による著作、ジャン・ダールやカトリック宣教団が作成した辞書などの一次資料によってあらためて確認することができた。
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