本研究では、アジア規模また世界規模での思想文化が連鎖的な様相をみせた近現代での豊富な漫画・写真・映画などの視覚資料の活用を重視するため、スタンフォード大学・北京大学図書館、中国国家図書館において20世紀中国を中心とする漫画雑誌を調査収集し、本務校で図像のデータ入力、分析をしながら、以下の研究発表をおこなった。 まず理事長をしていた中国社会文化学会の平成25年度の大会シンポジウム(7月)「中国のジェンダー構造の歴史的変容」を構想し、北京大学夏暁虹教授らを招聘し、大会時・大会後にも、中国・西洋・日本の歴史人物を参照した20世紀初頭の女傑像の作られかた、図像の役割などをめぐって討論・交流を深めた。 8月にはカナダのブリティッシュ・コロンビア大学における「東アジア社会の文脈における女性の位置」国際シンポジウムに参加、抗日戦争期における中国漫画家の中国女性と日本女性との描き方の差異がもつ問題を分析する報告をおこなった。提出論文は平成26年度に韓国・カナダで出版予定。 また10月には、北京大学での国際会議において、中国に社会進化論を広めることになった厳復の『天演論』を読む女学生姿のカレンダー画(1910年代)なども用い、改革・近代化を求める知識人、厳復が清末にあって、すでにヨーロッパで顕現していた「近代の病」を憂慮したハクスレーの著作を、創作的翻訳にいたった孤独感と夫婦不和という近代の悲劇を指摘する報告をおこなった。提出論文は平成26年度に論文集として中国圏で刊行予定。さらに12月には、同じく北京大学での国際会議において、清末・民国期の章炳麟(太炎)における、道家・仏教思想に染められながら、「病」に根本をおきつつ形成された身体観と性の意識とその近代性を指摘する報告をおこなった。 以上の研究活動によって、中国を中心とするアジア思想文化史のジェンダー化という本研究の目的にそう成果を得た。
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