研究課題
本研究課題では、戦前までの近代日本の教育におけるジェンダー格差の問題を、視覚的教育に対象を絞り、その構造を理解することを目指してきた。明らかにした点は以下の四点である。第一に、女子の美術教育について検証する上で不可欠な理論的ベース「女子の美術」という議論を検証し、女子に適する「美術」があるという理念および近代以降の美術教育の根幹を規定する枠組みを見出した。第二に、戦前までの学校美術教育において使用されてきた図画教科書を取り上げ、男女別に図画教科書の特徴を裁縫教育の要素を女子用教科書の中に多数挿入し、裁縫との親和性を持たせている点にあることを論証した。女子美術教育は極めて裁縫教育との親和性が高く、男女で大きな差異を持たせていたことを明らかにした。第三に、女子高等教育における美術教育を対象に、全国で唯一女子の専門美術教育機関であった私立女子美術学校、全国で唯一の女子のみの洋画塾・赤艸社女子絵画研究所、家庭で美術教育的空間を持つ事例として画家である父親が娘に与えた教育を、岸田劉生の『図画教育論』から検証した。第四として、戦後男女別に学ぶことがなくなった美術教育のジェンダー視点の不可視化という問題を取り上げた。戦前までの制度的な差異化・差別化はなくなったが、1980年代以降のフェミニスト・アート・エデュケーションを軸に、欧米の美術教育研究の三冊の研究書から、現代の美術教育研究の中で不可視化された経緯を考察した。現代社会の美術的産業への従事者のヒエラルキーは明らかにジェンダー化されている。美術教育を通じて育成された能力をもって、産業構造の中で男女は差異化されていくにもかかわらず、そのシステムは不可視化されている。こうした構造の原型はまさに近代社会に形成され、戦後、なんの議論もないままジェンダー秩序を維持したまま型だけが変更されていったことが本研究から明らかになった。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
女たちの21世紀
巻: 73 ページ: 70-73
Motherhood- Mother Images in Korean Art, Mother Images in Asian Art
巻: 1 ページ: 178-185