1、本研究の目的は、女の身体と子どもの「いのち」の結節点にあるとともに、近世社会にあっては、命を繋いでいく上で不可欠の命綱であった「乳」に焦点をあて、「乳」を巡る人々のネットワークをはじめとする、近世社会における女の身体と子どものいのちの環境を具体的に明らかにすることで、「いのちのジェンダー史」を切り拓くことにある。 2、今年は初年度にあたるため、研究課題に関する視点と方法、とくに近世社会の生殖といのちの観念やいのちの環境を明らかにするうえで「乳」に焦点をあてることの意味を、2010年度立命館大学大学院先端総合学術研究会公募研究会「出生をめぐる倫理研究会」における「子どもの『いのち』と女性の身体」と題する報告(2010年7月25日)、国立民族学博物館共同研究会「ウエルビーイングの思想とライフデザイン」における「江戸時代の捨て子養育と子どものいのち」と題する報告(2010年10月9日)、民衆史研究会50周年記念シンポジウム「民衆史研究の現在」における「性と生殖からみた近世女性の身体と子どものいのち」と題する報告(2010年12月11日)をおこなうなかで深める作業をおこなった。 3、さらに具史料収集と調査を重視し、大阪府立中之島図書館所蔵の柏原家文書、菊屋町文書、木屋町文書、大阪市立中央図書館所蔵の小林家文書、茨木市立文化財資料館、福岡市総合図書館の捨て子関係文書、山口県立文書館所蔵の毛利藩江戸藩邸の捨て子関係文書の収集、撮影をおこなった。これらの文書については、岡山大学大学院生などの協力も得て史料整理と文書の解読作業をおこなうとともに、大阪の捨て子養育の問題を「乳」の視点から分析した成果の一部を、「乳からみた近世大阪の捨て子の養育』『文化共生学研究』10号、岡山大学大学院社会文化科学研究科(2011年3月)としてまとめた。
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