1.本研究の目的は、女の身体と子どもの「いのち」の結節点にあるとともに、近世社会にあっては「いのち」を繋いでいくうえで不可欠の命綱であった「乳」に焦点をあて、「乳」をめぐる人々のネットワークをはじめとする、近世社会における女の身体と子どものいのちの環境を明らかにすることで『いのちのジェンダー史』を切り拓くことにある。 2、研究の最終年度にあたる今年度は、二年間に収集した史料の分析をもとに、人々が「いのち」を繋いできたことの歴史的意味を、身体という内なる自然と人々はどう向き合ってきたかという視点から考える「近世人のライフコース」(『環境の日本史4』吉川弘分館)にまとめた。 3、さらに、本研究をさらにひろい文脈の中で捉え直すために、また、本研究が、地域に生きる人々にとって持つ意味を検証する意味でも、「乳からみた近世社会の胎児・赤子のいのち」(日本科学史学会生物学史分科会)、赤子と母のいのちを守るための江戸時代の民間療法(国立民族学博物館国際シンポジウム「ヒーリング・オルタナティヴス―ケアと養生の文化」)、「妊娠、出産を通してみた女・子どものいのちと医療―一関領内を中心にー」(一関市博物館、建部清庵生誕300周年記念シンポジウム)という三回の報告を行った。 4、また、本テーマでの研究成果である論稿をまとめた論考編、三年間に収集した捨て子関係史料の翻刻を掲載した史料編を含む研究成果報告書を刊行し、関係機関や研究者に送付した。さらに、近代の乳の問題にもふれた『近代家族と子育て』(吉川弘文館)を刊行した。
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