研究課題/領域番号 |
22520001
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
中川 大 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (40237227)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 英国新実在論 |
研究概要 |
ムーアの哲学に対してディミトリ・ミハルチェフの実在論が与えた影響についての検討成果を整理した。ムーアの実在論がどのようにミハルチェフ実在論を摂取したのかという問題について、N. Milkov の研究を参照しつつ、ムーアにおける倫理学と実在論の関係という観点から吟味した。 そのいっぽうで、マイノングの対象理論についての研究に着手した。そこでは、マイノングが対象理論をブレンターノ存在論にどのように対抗して形成したのか、また、ラッセルが対象理論をどのように摂取し、また批判したのかをあらためて検討した。この研究は、ブレンターノとマイノングとの関係を、ムーアとラッセルとの関係を理解するための参照項たらしめるという制約のもとでおこなった。 ムーアに対するブレンターノの影響について考えるために、ブレンターノの判断論と真理論にかかわる C. Parsons の論考や、価値理論へのブレンターノの貢献について検討する R.M. Chisholm の著作、ブレンターノの判断論を論理学史の文脈において考察した。 P. Simons の論文、ブレンターノの倫理学の発展についての L. McAlister の研究、ブレンターノ存在論をめぐる A. Chrudzimski の研究などをあらためて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ムーアの哲学に対するディミトリ・ミハルチェフの実在論が与えた影響についての検討成果を整理すること、およびムーアに対するブレンターノの影響について考えるために、ブレンターノの判断論と真理論にかかわる C. Parsons の論考や、価値理論へのブレンターノの貢献について検討する R.M. Chisholm の著作、ブレンターノの判断論を論理学史の文脈において考察することについては、おおむね課題を遂行することができた。 しかし、マイノングの対象理論ならびに、ラッセルが対象理論をどのように摂取し、また批判したのかについての研究は、まだ不十分だと思われる。とくに、ブレンターノ存在論とマイノングの対象理論との比較、ムーアの観念論論駁とラッセルの観念論論駁との比較について補充するべきことが多い。 また、ムーアの実在論を理解するためには、かれの初期のカント研究を精査する必要があることが認識された。この問題についての検討を追加することを通じて、本研究を補完しなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
ムーアの1898年のフェローシップ請求論文を精査して、ムーアの「前提」概念について検討する。そして、この概念がムーアの判断論および観念論論駁にどのように関わるのかを明らかにする。その際には、昨年度までの、ブレンターノやミハルチェフの実在論がムーアに与えた影響についての検討成果を援用する。 また、ムーアの前提概念の理論的意義を解明するためには、ラッセルの記述理論の問題設定とムーアの前提理論の問題設定とを比較することが有意義である。その作業にあたっては、昨年度に着手した、マイノングの対象理論をラッセルがどのように摂取し、また批判したのかという研究が有用となる。 さらに、ムーアの判断論について、その射程をきちんと見積もるために、ムーアの真理論を真理の同一説という観点から吟味し直す。その目的を果たすために、2つの予備的な研究をおこなう。ひとつは、ムーアが念頭に置いているブラッドリーの判断論について考察することである。とりわけ『論理学原理』が重要となろう。もうひとつは最近の真理論研究と関連づけて、ムーアの判断論を捉え返すことである。
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