本年度は、最終年度として、技術という実践的営為、実践的知識のありかたについて統合的な解明を目指すべく、、(1)人工物の機能の存在論、(2)設計に関する科学論・知識論、(3)人工物が帯びる規範性、の三点から逐次研究を進めた。併せて、とくに中等教育における技術哲学、技術倫理教育への適用とに取り組んだ。 人工物機能としては、第一にいわゆる固有機能のもつ意義を明らかにした。人工物の志向性論を援用しつつ、とくに生物学的機能との対比、象徴機能との区別を通じ、固有機能の規範性の強制性と多様安定性との緊張関係に着目して、固有機能がそのせめぎ合いの中で固定化することを明らかにした。 また、人工物の歴史的持続性と歴史的起源とを対比させながら、人工物に組み込まれた技術的知識の物語的性格について検討した。このことは設計の意図とその限界とを明らかにし、多様安定性に対しエラーや事故の防止という点から制限を加えるものである。より具体的な事例としては原発を取り上げ、物語的性格とを関係づけつつ、ペローのいうノーマルアクシデントについて上記の物語的性格という視点から考察を加え、学会で報告した。 さらに、3.11後の状況の中で哲学研究が現場状況といかに切り結ぶべきかがとりわけこの分野において問われているが、この点に鑑みて、以上の研究と平行して、中等教育の教員と技術の規範の基礎となる教育について、対話的教育の実践の検討を行った。
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