平成23年度は、画像の問題に関して、二つの観点から踏み込んだ検討を行った。 第一は、画像を見る経験における想像のあり方をどう考えるかという観点である。画像を見るとは、通常の絵画作品の場合ならば、ある平面上の物体を見ることであると同時に、そこにあたかも一定の空間的な広がりを見ているかのような想像体験を味わうことである。そこまでは、おそらく自明な事実とみてよい。しかし、意外に分かりにくいのは、その場合の、あたかもある三次元の対象を見ているかのような想像の内実である。本年度の研究の一つの焦点として検討したのは、この想像の内訳が、画像の内容や性格に応じて多様だという事情である。 第二は、画像とはそもそもどのような対象なのか、という存在論的な観点である。描写の問題とは一見無縁なこの存在論的な考察は、実は画像の描写機能を考える上で決定的に重要である。絵が何を描いているかについての理解は、たとえば版画の場合なら、特定のプリントの描写内容を考える場合と、同じ版のすべてのプリントに共通の描写内容を考える場合とでは、異なってくるからである。こうした事情を再確認し、今後の課題の方向を明確にできたことが、本年度後半期の成果である。
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