研究概要 |
第一に、フッサールの著作から明証論関係の重要テキストを綿密に検討した。とりわけ『現象学の理念』Die Idee der Phanomenologieを手がかりに明証論と還元論の関わりを精査し、これを基盤として、明証論的・真理論的観点からとりわけ重要な「実在性」Realitatおよび「現実性」Wirklichkeitの概念と自我論との関わりについて、包括的な観点から研究した。これにより、明証論的観点から、現象学全体の解釈、ならびに現実の哲学的解釈としての現象学の意義を明らかにすることができた。これらの成果については、Husserl Circle,韓国現象学会,日本現象学会等で発表した。 第二に、上記の成果は、科学的・学問的研究の合理性についての明証論的考察を大きく前進させた。上記の解釈を基盤として、ピート・ハット氏(プリンストン高等研究所教授、物理学)、西郷甲矢人氏(長浜バイオ大学講師、数学)との共同研究を開始し、明証論に基づいた現象学的な現実解釈のなかに科学研究の合理性をどのように位置づけることができるのかについて、体系的に考察した。とりわけ、科学研究が一人称的・自我論的な観点を見かけ上排除しているにもかかわらず、実際には一人称的経験を不可欠の条件の一つとしてもつことについて、重要な洞察を得ることができた。この方面に関連して、分析哲学における外在主義と内在主義の論争、近年の「心の哲学」ならびに「認知科学」における成果についても、ある程度基本的な論点を吟味し、次年度以降の研究を準備することができた。
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