研究課題/領域番号 |
22520006
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
田口 茂 山形大学, 地域教育文化学部, 准教授 (50287950)
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キーワード | フッサール / 自我 / 明証 / 真理 / 一人称 / 現象 / 科学論 |
研究概要 |
23年度は、第一に、フッサール現象学における「明証」論の検討を、自我論との関わりに留意しつつさらに推し進めた。その結果、現象学的「明証」がなぜ固定的な成果としては捉えられず、むしろ絶えず認識と思考の更なる展開への「媒体」として捉えられねばならないのかを、いくつかの方面から明らかにすることができた。この方向では、現象学的明証論をめぐる近年の諸研究の検討、拙著を取り上げたフッサール研究会シンポジウムでの討論、現象学にも批判的検討を加えている田辺元の「媒介」思想の研究などがとりわけ研究の進展に資するところがあった。 第二に、22年度に引き続き、ピート・ハット・プリンストン高等研究所教授(物理学・学際研究)、西郷甲矢人・長浜バイオ大学講師(数学)との共同研究を進め、これにより本研究における明証論・真理論の研究成果を科学論的観点からも具体的に検証・修正することができた。とりわけピート・ハット教授が企画者の一人となった、Center of Theological Inquiry(Princeton)における共同セミナーに招待され、共同討議に参加できたことは、本研究の成果を諸科学における知との関係で捉え直すために大いに役立った。西郷甲矢人氏とは定期的に共同研究を進め、現代数学の先端的知見(とりわけ圏論)から、現象学的明証論および自我論の数学的含意という予想外の成果をも得ることができた。 第三に、認知科学ならびに分析哲学における「一人称」概念について、22年度に引き続き検討を進め、その研究成果の一部をSt.Louis Universityで開催された「現象学と諸科学」をめぐる学会で発表することができた。この方向ではとりわけ、認知科学における「一人称」的経験の研究の中に、現象学的明証論に基づく「原一人称性」と「変様された一人称性」との区別を導入することを試み、一定の成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現象学的自我論と明証論を、単に現象学内部の議論によって検討するのではなく、科学論的方面、認知科学的方面、数学的方面、媒介論的方面など、予想以上に多方面から検討することができたため。とりわけ、関心を共有する他分野の研究者との共同討議により、科学論的方面をも含めた「知の一般理論」としての現象学的明証論の研究に、期待以上の進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、物理学、数学、認知科学、生物学等、他分野の研究者との対話により、諸科学における「一人称」的視点の意義に関する研究が予想以上に進展してきた。最終年度に当たる24年度は、他分野の研究者との共同討議を集中して継続することにより、この方面での研究をさらに推し進めたい。また、これまでの研究を通じて、科学論から出発し数学と哲学の内的関係について立ち入った研究を行った田辺元の思想が、現象学的自我論の真理論・理性論的含意を検討するために重要な意義をもちうることがわかってきた。田辺元の哲学を媒介とすることにより、現象学的自我論と明証論を批判的に展開することをも試みる。
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