(1)フッサールの明証論に関しては、関連テキストを再度精査し、いくつかの新たな知見を得た。「現実性」と「合理性」の解釈に関しては、『イデーンI』『事物と空間』等のテキストの再検討により、とりわけ世界性とプロセス的合理性の解釈に関して大きな進展があった。その成果は2012年11月にチリのサンチアゴで行われたフッサール記念学会で発表した。また、「充実」現象の立ち入った検討により、これまで十分にアプローチできなかった受動的綜合の分析に関する明証論的視角からの解釈が可能となった。これにより、いわゆる「必当然的明証」の含意がより正確に理解可能となった。 (2)現代の認知科学を参照しつつフッサールの自我論および明証論の含意を再検討することにより、とりわけ「循環性」の解釈において一定の進展があった。また、科学論とドイツ観念論の検討から独自の「媒介」概念を発展させた田辺元の哲学を参照することにより、フッサールの「明証」概念の解釈に格段の進展が見られた。フッサールの「明証」概念はしばしば確証プロセスを一方的に停止させるものとして非難されたが、媒介論的な観点を導入することにより、「明証」とは経験プロセスの媒介機能にその本質をもつものであるという解釈が可能であることがわかった。その成果の一部は、2013年4月にコペンハーゲン大学で行われた北欧現象学会第11回年次大会において発表した。この方向での研究は引き続き2013年度から行う科学研究費補助金基盤研究(C)にて継続する予定である。 (3)昨年度までに引き続き、ピート・ハット(Piet Hut)・プリンストン高等研究所教授(物理学・学際研究)、西郷甲矢人・長浜バイオ大学講師(数学)との共同研究を継続し、物理学的・数学的な視角から本研究の成果に関して有益なコメントを得ることができた。西郷氏とは共著論文を執筆中である。
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