研究課題/領域番号 |
22520009
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
服部 健司 群馬大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (90312884)
|
キーワード | 臨床倫理学 / 倫理学 / 文学の哲学 / 反原則主義 |
研究概要 |
臨床倫理学は、今日あらゆる人々がいずれ何らかの仕方で関わりをもたざるをえない医療の場という特殊な状況で、患者や家族、医療者がいかに振舞うべきか、振舞うことがゆるされるのかという倫理問題を、個別的な個々のケースを通して具体的に考える。何らかの抽象的な原理を持ち出し、判断の難しいケースに演繹的に適用しようとするビーチャム&チルドレスのいわゆる原則主義に抗して、ジョンセンらが対案として提出したのが現代カズイストリである。これは中世で発達しルネッサンス期に隆盛を極めたイエズス会の倫理問題解決技法を理論化したものである。本邦の臨床倫理研修の場などで四原則とともに広く使用されている四分割法という手法が、実は現代カズイストリの一部分を切り離し独立させたものに他ならないということはあまり知られていないようである。カズイストリはケースに内在する特異的な諸事情の細部を捨象しないケース中心的な技法であるとされるが、ジョンセンらの現代カズイストリは、典型的ケースを両端とする線分上に同系の様々なケースを配置する幾何学的図絵によって、倫理学的判断の体系化・客観化を図ろうとするという点で、単なる個別主義や文脈主義と区別されることを望んでいる。しかし、こうした図式的化体系化への強い欲求は、対をなしていたはずの原則主義の方へとカズイストリを向かわせることになる。個々のケースはやはり他の諸ケースとの類比や対照によってしか考察することはできないのだろうか。またその類比や対照、そして体系的図絵化の正当性の判断の基準はどこに求められるのか。従来、ボトムアップ型のケースメソッドの代名詞としてみなされてきた現代カズイストリではあるが、再検討すべき点を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した実施計画は2本の柱から成り立っていた。一つは、道徳的個別主義の検討であり、他方は臨床倫理学教育の方法論の検討であった。前者に関連した和文論文が学会誌に掲載されており、後者に関しては以下に記すように、国際学会で2題、国内学会で1題の報告を行っており、現在投稿中である。またこれらの成果を盛り込んだ教科書の改訂版を刊行した。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、教育の方法論から原理論へと重心を移して、研究を遂行していく予定である。主題に関する先行研究図書もかなり揃ってきており、批判的に読み込みを重ねていきたい。
|