研究課題
今年度は、必然的属性として本質を規定するクリプキ、パトナム流の本質主義に対し、実在的定義こそが本来の本質であるとするファイン、ロウ、オーダーバーグ流の本質主義に基づき、その個別的応用事例として、穴の実在的定義を試みた。穴については、拙著『穴と境界:存在論的探究』(2008)において、すでに次のような定義を提示した:「穴とは、物体の補空間のうち、その物体に外的に連結している充填可能な形状の部分に位置する、非質料的持続体である。」これは、物体に存在論的に依存する非物質的かつ持続的対象として穴を規定した定義であったが、その出版後、拙著に対する書評などに触れ、特にその中に含まれている「充填可能性」という概念の明確化の必要性を感ずることとなった。こうした経緯のもとで、今年度は二回の口頭発表とそれらに基づく'Power of Holes'、「穴の力」という二つの論文において穴の定義の再検討を行い、穴の充填可能性の基礎にある本質的属性としての非質料性、依存性、全体性の解明を行った。その結果、充填可能性を固性の対極に位置する極限的かつ創発的な力能(傾向性)として規定し、それに基づいて穴を一種の極限的な物理的対象として捉えられることを示した。そして最終的に穴を「(諸)物体の補空間のうちその(諸)物体に外的に連結している部分に、その(諸)物体の形状や配置に依存して創発する、充填可能性という力能(傾向性)を持つ非質料的持続体」として再定義した。本質主義の論理については、これまで視野に入れていたファイン、ザルタの研究以外に、ファインの本質主義の論理を批判的視点とともに継承しつつ展開させた、コレイア、マルコス、スタインヴォルドら若手研究者による諸研究があることを知り、現在、それらを含めて比較検討を進めている。
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イギリス哲学研究
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埼玉大学紀要(教養学部)
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