研究課題/領域番号 |
22520011
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
高橋 久一郎 千葉大学, 文学部, 教授 (60197134)
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キーワード | アリストテレス / エネルゲイア / 実在論 / 知識 / 規範性 / 類と種 |
研究概要 |
今年度は、形而上学の一つの大きな課題である知識対象の存在論にかんするアリストテレスの主著である『分析論後書』の翻訳と注解の作業を行うと共に、「善」をはじめとする「道徳的性質」の存在論についてのアリストテレス研究とも交差している現代の文献のサーベイを行った。 前者については、近い将来、岩波書店から新訳『アリストテレス全集』の一冊として刊行される予定である。プラトンが「イデア」論という形而上学的主張と一体になった形で論じた知識の対象をどのように考えるかは、「イデア」の存在を認めないアリストテレスにとっても、とりわけ「普遍的で必然的である」在り方をするとされる「エピステーメー」における対象ついては、自らの行った「イデア論批判」を免れているかどうかも含めて、ある種の緊張関係にある。翻訳と注解は、この関係の解明をも試みている。後者については、「個別的なことがら」との関わりで示される「フロネーシス」における対象の存在論的身分については、「人間にとっての善」という位相で論じられるために、さらに微妙な位置にあるが、そ立場を明らかにすることは、現代の倫理学における道徳的性質の存在論的身分についての論争にも有益な示唆をもたらし、逆に、今年度行った現代における論争点の整理はアリストテレスの立場の明確化に不可欠である。 なお、副産物として、「人の生(存在)」をどのように考えるかという視点からアリストテレスの視点を援用しつつ、脳死・臓器移植について問題を分析する考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の採択後、新しい日本語版アリストテレス全集のために『分析論後書』の翻訳を担当することになったため、研究の主要な対象を『形而上学』から『分析論後書』に移したため、当初の計画とはやや異なる観点から形而上学における意義を検討することになったが、むしろ包括的な視点のもとに研究がなされていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、ほぼ順調に進展しているため、『分析論後書』の翻訳と注解、そして「エネルゲイア」としての知識という観点からの解説を執筆するとともに、道徳に関わることがらの存在と知識の在り方についてアリストテレスの立場を踏まえながら、現代における論争点を巡る整理と一つの回答の試みを行う。
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