本研究計画では、近現代のロシア哲学・思想における存在論的な観点からの意識ないし知性の理解のあり方と、それに関連した倫理的関心のあり方を解明することを目的としている。 今年度も昨年度に引き続き、9月にロシア連邦モスクワ市のロシア国立図書館等で資料調査を行い、2月にも同地で補足的な調査を行った。また、3月に北海道大学所蔵の資料についても調査を行った。 また、現地の研究者との意見交換を行い、近年では19世紀の帝政期の哲学とソヴィエト時代の哲学との志向/関心の共通性に着目する研究が増えているという指摘を受け、両者の関連について検討する作業を行った。そのケース・スタディとして、イリエンコフ(1924-79)の所説の分析を行った。 ママルダシヴィリは、個人という存在の主観的な枠組みの中で、それを超越するような客観的、普遍的な科学的発見のような事態が起こることを重く見ており、そうした新たな知の配置を「自由」と呼んでいた。イリエンコフはそうした主観的枠組みを前提とするのではなく、人間が他の外的な存在と関わる実践的活動を通じて、対象が行為実践の中で理解されていくことが理念の獲得そのものであると捉えている。イリエンコフは用語の上では反映論を保持しているため、この実践的活動における理解を反映と呼ぶが、この見方からすれば、人間と対象はその相互関係の中で、存在者としての互いの存在性格(とそれによる行動のあり方)に従う形で認識や知識を獲得すると見ていることになる。これは認識を相互浸透的な行為として捉えた帝政期の宗教哲学における存在論的認識論と同じ傾向を示しているとも言え、異なる二つの時代の議論の中にある種の親和性が存在していることが確認できたと言える。 研究成果としては、学会報告1点、神奈川大学人文学研究所刊行の論文集に寄稿した論文1点がある。
|