研究課題/領域番号 |
22520016
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
城戸 淳 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (90323948)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | カント / 哲学史 / ライプニッツ / 人格 / ロック / 『純粋理性批判』 / 第三誤謬推理 |
研究概要 |
本研究は、『純粋理性批判』を中心とするカントの理論哲学を近代哲学史のなかに位置づけ、デカルト、ロック、ライプニッツ、ヒュームなどの近代の哲学者とカントとの対話の地平を設定することによって、カント哲学の輪郭を切り出そうとする哲学史的研究である。平成24年度は、過年度までのデカルト、ロックの研究を引き継ぎつつ、ライプニッツ哲学の研究に取り組み、ライプニッツとカントの対話的哲学史の再構築を試みた。 その成果として、論文「カントと人格同一性の問題──第三誤謬推理のコンテクスト」では、カントの第三誤謬推理をデカルト、ロック、ライプニッツの伝統に遡り、その問題機制を哲学史的に再構成することができた。人格同一性をめぐるロックの記憶説は脱実体的な人格概念に立つものであるが、カントの批判する合理的心理学は、デカルト的な思考実体のうえにロック的な記憶を重ねるライプニッツ=ヴォルフ的な立場である。これに対してカントは、通時的な私の意識は別々の実体を跨いでも成り立つので、同一の私という思考実体の持続を保証しない、と判定する。この判定を最近の「疑似記憶」概念で解釈する向きもあるが、むしろカントの洞察は、実体論的には無効ではあるにせよ、記憶は不可避的に自己同一の意識をともなうというところに存している。このカントの超越論的な洞察は、記憶が必然的に過去の私を構成してしまうというロックの苦境を、洗練させたかたちで受け継ぐものである。 また『感情と表象の生まれるところ』所収の「現象の形式へ──カントの感性論の第2論証を読む」は、カントの超越論的感性論のもつ哲学的方法論としての射程を、ニュートンやライプニッツといった近代の空間・時間論のコンテクストのなかで解明したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
カントの理論哲学を近代哲学史のコンテクストに位置づけるという研究目的に即して、目下のところ順調に研究が進められており、その成果は順次、雑誌などで発表されているところである。 ただし、デカルトやロック、ライプニッツなどの個別の哲学者について詳細な研究を進める必要があり、作業量が膨大なため、進捗状況としてはやや遅れているといわざるをえない。ライプニッツとカントをめぐる専一の論文も準備中の段階にとどままっている。 また、多くの場合、哲学史的なコンテクストの発掘にとどまり、当初の目論見であった「対話的哲学史」という段階には至っていない。論文「カントと人格同一性の問題──第三誤謬推理のコンテクスト」はこの対話的な試みの第一歩であるが、これをさらに多方面に展開する必要があろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、カントとライプニッツとの多面的な対決の場面の全貌をえがきとるべく、研究の幅をひろげてゆく。来年度はさらに、ヒューム研究を踏まえて、イギリス哲学とカントとの対話を再構築することを試みたい。 近代の哲学はラテン語、英語、フランス語、ドイツ語など、さまざまな言語に分岐して、そのあいだの影響関係も複雑である。また、当時の文献を写真の画像にしたデータが大量に公開されつつあり、研究対象や手段が大きく変わりつつある。新たな資料に対応しつつ、錯綜した近代思想の脈略のなかで「対話的哲学史」を実現するために、いっそう精力的に研究を進める必要があると感じているところである。 また多くの専門家の知見を必要とするため、学会やセミナーの機会を活用して研究の幅を広げたいと思う。
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