本研究は、『純粋理性批判』を中心とするカントの理論哲学を、その中心的な諸問題に即して、あらためてひろく近代哲学史のなかに位置づけるものであり、デカルト、ロック、ライプニッツ、ヒュームなどの近代の哲学者との対比を補助線にしてカント哲学の中心的課題の輪郭を切り出そうとする哲学史研究である。これはまた、カントの批判哲学を近代哲学史の大きな問題連関のなかで再考することによって、近代の哲学者たちとカントとの哲学的対話の地平を設定する試みでもあった。 最終年度は、前年度までのデカルト、ロック、ライプニッツの研究に引き続き、ヒュームを研究課題とし、また四年間にわたる本研究の総括にも取り組んだ。まずドイツ啓蒙とカント哲学の形成におけるヒュームの影響と意義について研究を進め、とりわけヒュームの著作のドイツ語訳者として知られるピストリウスによる書評に焦点をしぼって、その邦訳・解題を発表した。また四年間にわたる本研究の成果は、単著『理性の深淵──カント超越論的弁証論の研究』として刊行され、対話的哲学史の試みとして一定の結実を見たものと思われる。その他、論文「カントと心身問題」では、近代哲学史のコンテクストにおいてカントの心身問題論を再構成した。つづいて平成26年中には、カントの時間論を当時のドイツ哲学の問題構成のなかで考察する論文を発表する予定である。
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