研究概要 |
(1) 雑誌論文「自己犠牲的行為の説明--行為の演技論的分析への序論--」を『哲学』第61号に発表した。この論文は、人間の社会的行為を演技として見るという、本研究の基本的な立場の正当性を、自己犠牲的行為という行為類型に即して論証したものである。 (2) 雑誌論文'"Will" and "Ishi" : Explanation of Action in Cross Cultural Perspectives'を、Journal of the School of Letters Vol.7, Nagoya Universityに発表した。本論文は、英語の「will」と日本語の「意志」の使用規則の違いに着目し、「意志」に顕著に見られる状況依存性を導入すれば、意志の弱さ(アクラシアー)や自己欺瞞といった西洋哲学の「the will」概念に固有の難問が、無理なく解消できることを論じたものである。この論考は、環境に組み込まれた行為の制約条件を、行為を産出する社会 的シナリオとして行為者に優越する水準で導入すれば、個人主義とは異なる社会構成の原理が与えられうること、並びに、個人のthe willにともなう難問が消滅すること、を指摘するものである。 (3) 個人研究発表「暴力の是認と道徳の起源」を、第二回応用哲学会大会において行なった。本発表は、暴力を是認する神話的言説の中で、類人猿とは異なるヒトの集団的な行動規則、すなわち道徳的な諸規則が発生する、という人類学的見通しを述べたものである。太古の神話的言説は、しばしば狩猟行為のための虚構の枠組みとして機能しており、この虚構の枠組みの中で狩りにおける動物殺し、すなわち環境を共有する仲間の殺害とその肉の利用、が正当化される、というイデオロギー的な装置となっている。この論考は、演技的な振る舞いが、権力と道徳を形成するヒト社会の基盤に見いだされる、という方向に本研究を展開したものである。
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