研究概要 |
平成23年度は、当初の「研究の目的」のうち「(A)人間の行為一般を、何かのフリをしたり、真似をしたり、演技をしたりすることと同じ構造を備えたものとして分析すること」に関し、実施計画中の「(A2)虚構の物語を語る(fictional storytelling)という言語行為に着目し、…〔物語に関して〕複数の人々が共通の理解を形成する意味論的なメカニズム、及び、虚構の登場人物に愛着や嫌悪を感じたり、共感や反感を抱いたりする情緒のメカニズムを、J. Searl, D. Lewis, G. Evans, K. Walton, G. Currie等の研究に拠りつつ、考察する。…」について、下の通りの研究成果を得た。 すなわち、雑誌論文「虚構の語りと言語行為論」を『名古屋大学文学部研究論集』哲学58号に発表した。本論文は、J. Searl, D. Lewis, G. Currieの虚構の理論を分析し、これらの理論がいずれも「何かのフリをすること(pretence)」という心的態度に虚構の語りの基礎を置くのにも関わらず「フリをすること」自体の分析を欠く、という欠陥を持つことを指摘した。J.Sear1とG.Currieは、語用論的な関心に沿って虚構の語りを分析し、断定するフリをすること(Searl)、またはゴッコ遊び的に信じる(make-believe)こと(Currie)を、虚構の語りの基礎であるとする。D.Lewisは意味論的な関心に沿って分析し、言語と可能世界の対応関係から虚構を特徴づけるが、可能世界を設定する際に、フリ行為(pretence)の概念を利用する。これらの理論は、虚構の根底に「何かのフリをすること」を見出し、かつ、それ以上分析しえない原始概念(primitive concept)としてそれを扱う、という構造的欠陥を持っている。この欠陥は、言語だけではなく画像や身振りまで含めて記号解釈のメカニズムを分析し、象徴一般に共通の、非現実の提示効果(ゴッコ遊び的な提示効果)を作っている認知と行動の基礎的構造を取り出すことによって、克服可能であると考えられる。
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