• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2011 年度 実績報告書

行為の演技論的分析と新たな社会哲学の原理

研究課題

研究課題/領域番号 22520018
研究機関名古屋大学

研究代表者

田村 均  名古屋大学, 大学院・文学研究科, 教授 (40188438)

キーワード虚構(fiction) / フリ(pretence) / ゴッコ遊び(make-believe) / サール(Searl) / D.ルイス(D.Lewis) / G.カリー(G.Currie) / 物語 / 言語行為論
研究概要

平成23年度は、当初の「研究の目的」のうち「(A)人間の行為一般を、何かのフリをしたり、真似をしたり、演技をしたりすることと同じ構造を備えたものとして分析すること」に関し、実施計画中の「(A2)虚構の物語を語る(fictional storytelling)という言語行為に着目し、…〔物語に関して〕複数の人々が共通の理解を形成する意味論的なメカニズム、及び、虚構の登場人物に愛着や嫌悪を感じたり、共感や反感を抱いたりする情緒のメカニズムを、J. Searl, D. Lewis, G. Evans, K. Walton, G. Currie等の研究に拠りつつ、考察する。…」について、下の通りの研究成果を得た。
すなわち、雑誌論文「虚構の語りと言語行為論」を『名古屋大学文学部研究論集』哲学58号に発表した。本論文は、J. Searl, D. Lewis, G. Currieの虚構の理論を分析し、これらの理論がいずれも「何かのフリをすること(pretence)」という心的態度に虚構の語りの基礎を置くのにも関わらず「フリをすること」自体の分析を欠く、という欠陥を持つことを指摘した。J.Sear1とG.Currieは、語用論的な関心に沿って虚構の語りを分析し、断定するフリをすること(Searl)、またはゴッコ遊び的に信じる(make-believe)こと(Currie)を、虚構の語りの基礎であるとする。D.Lewisは意味論的な関心に沿って分析し、言語と可能世界の対応関係から虚構を特徴づけるが、可能世界を設定する際に、フリ行為(pretence)の概念を利用する。これらの理論は、虚構の根底に「何かのフリをすること」を見出し、かつ、それ以上分析しえない原始概念(primitive concept)としてそれを扱う、という構造的欠陥を持っている。この欠陥は、言語だけではなく画像や身振りまで含めて記号解釈のメカニズムを分析し、象徴一般に共通の、非現実の提示効果(ゴッコ遊び的な提示効果)を作っている認知と行動の基礎的構造を取り出すことによって、克服可能であると考えられる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

上記「研究実績の概要」に述べたとおり、当初の研究目的および実施計画に沿って、研究成果が得られている。特に、言語行為論からのアプローチを取るサールやカリーと、意味論からのアプローチをとるルイスの関係は、従来必ずしも明瞭でなかったが、いずれのアプローチも、「フリをすること」を原始概念として含むことが明らかになったのは、大きな成果である。言語行為論的アプローチも意味論的アプローチも、ともに「フリをすること」を導入しない限り、虚構の語りが説明できないということは、人間の心的態度としての「フリ」「まね」「演技」が、象徴一般を可能にする基礎的な構造としてある、という見通しを裏書きするものである。

今後の研究の推進方策

今後は当初の研究目的のB「社会哲学の新しい原理を提起する」に関し、平成24年度の交付申請書に記載したとおり、先史時代の洞窟壁画に関する認知考古学的な研究を精査する予定である。この展開は、近代社会においては抑圧されてきた意識変容状態(the altered states of consciousness)の位置づけが、幻想(象徴)領域への人類社会の関わり方の分析において、検討の対象となるべきであるとの見通しに立つものである。すなわち、いわゆるシャーマニズムに見られる「演技性」「ゴッコ遊び性」は、従来、ともすれば未開人特有の児戯に類する振る舞いと見られてきたが、演技的、ゴッコ遊び的な<児戯>こそが、社会形成に重要な意義を持つのかもしれない、という方向での検討となる。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2012

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)

  • [雑誌論文] 虚構の語りと言語行為論2012

    • 著者名/発表者名
      田村均
    • 雑誌名

      名古屋大学文学部研究論集・哲学

      巻: 58 ページ: 1-29

    • 査読あり

URL: 

公開日: 2013-06-26  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi