研究課題/領域番号 |
22520018
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田村 均 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (40188438)
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研究期間 (年度) |
2010-10-20 – 2015-03-31
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キーワード | ケンダル・ウォルトン / ごっこ遊び / 演技的行為 / 虚構 / ルイス=ウィリアムズ / シャーマン / 共同体 / 藝術 |
研究概要 |
平成24年度上半期には、当初の研究実施計画の(B)に関し、J・D・ルイス=ウィリアムズによる旧石器時代の洞窟壁画の象徴論的な研究を踏まえ、西洋哲学の知性主義の伝統が、洞窟壁画によって示唆されるシャーマン的な活動とどのように対立するのかについて、原理的な研究を行なった。知性主義は、政治的・宗教的共同体の不合理な力(権力性)に直面するときに、しばしば無力さをあらわにする。シャーマン的なトランスは、知性主義の抑制を外して人々を不合理な共同行為に巻き込む政治的な仕掛けとして機能すると考えられる。この研究成果は、「なぜシャーマンと絵とダンスが哲学の問題になるのか?」(『哲学フォーラム』第10号pp.1-10、名古屋大学大学院文学研究科、哲学研究室編集)に発表された。 平成24年度下半期は、当初の研究実施計画の(A)に即して、K・L・ウォルトンのごっこ遊び概念による藝術作品の解釈の理論を詳細に検討した。ウォルトンは、想像力の基本的な構造の分析から考察を始め、最終的には、藝術作品を小道具(props)として人々が各人のごっこ遊び世界を形成し、その世界における行為(虚構世界における身体動作)を通して藝術作品が解釈される構造を描き出している。この理論は、人間の行為一般が、現実世界の身体を虚構世界に移し入れて行為するという構造、言い換えれば、理念の中での身体の動作という構造を持つことを示していると言える。この研究成果は、「虚構制作の根源性――ケンダル・ウォルトンの虚構論――」(『名古屋大学文学部研究論集』哲学59、pp.1-34)として公表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの各年度の研究課題は、(1)平成22年度については、幼児のごっこ遊び等の生成プロセスの分析と虚構世界への参加体験としての藝術鑑賞の考察、(2)平成23年度については、虚構の物語を語るという言語行為の検討、(3)平成24年度については、藝術鑑賞一般への虚構の語りの理論の拡張的適用、および旧石器時代の洞窟壁画の象徴論的分析、であった。 これらの研究課題は継続的に遂行されて、平成23年度の研究論文「虚構の語りと言語行為論」(『名古屋大学文学部研究論集』哲学58)および、平成24年度の研究論文「虚構制作の根源性」(『名古屋大学文学部研究論集』哲学59)、「「なぜシャーマンと絵とダンスが哲学の課題になるのか?」(『哲学フォーラム』第10号)に結実している。 以上のとおりで、本研究課題は、各年度ごとの達成度において、当初の研究目的を予定通り実現しつつあり、全体として順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初研究目的を簡略に述べれば、(A)人間の行為一般を、フリ・真似・演技として分析し、(B)この分析にもとづいて、社会哲学の新しい原理を提起する、というものであった。 (A)に関しては、これまでジョン・サールの、事実を語るフリをすることとして虚構の語りを分析する立場と、ケンダル・ウォルトンの、ごっこ遊びによる象徴解釈の理論とを、中心的に取り扱ってきた。今年度以降は、さらに虚構的存在者の存在論へと論を進めて、語るフリをすることやごっこ遊びの中で成り立つ事象の存在論的な位置を考察する。その際特に、ジョン・ペリー(John Perry)のReference and Reflexivity, 2nd Edition、R.M.セインズベリ(R.M.Sainsbury)のReference without Referents、を手がかりとする。 (B)に関しては、旧石器時代の洞窟壁画のシャーマニズム解釈を手がかりに、象徴に媒介された共同性の演技的構築という現象を取り上げた。今年度以降は、図像、音声、身振り等によって象徴的な伝達体系が構築され、この体系に沿って人々が意図を共有し、共同的に行為する、という構造を、ジョン・サール、マーガレット・ギルバート、ライモ・トゥオメラ、マイケル・ブラットマンらの共同行為論を通じて分析して行く。 さしあたっては、ジョン・サールの社会的実在の構築の理論を叩き台として、虚構的存在者の存在論的位置づけ(上記(A)の課題)を踏まえ、現実世界の生身の人間が、共同的に実現された虚構世界において身体動作を行なう、という演劇的な社会性のあり方を解明することが目標となる。
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