研究課題/領域番号 |
22520020
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
瀬口 昌久 名古屋工業大学, 工学研究科, 教授 (40262943)
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キーワード | 老年論 / 正義論 / プラトン / アリストテレス / 乾燥 / 長老制度 / 認知症 / 年長者 |
研究概要 |
プラトンとアリストテレスの老年論の比較を行なった。プラトンは、老いた両親の遺棄や虐待を禁止するとともに、父親が認知症になった場合の後見人制度を認めるなどの社会的施策をも規定している。老いによる身体の変化が魂の活動に間接的に影響を与えることや、魂の病気が身体的条件によってもたらされることも十分に考慮している。プラトンは、老年における人間のきびしい現実をふまえたうえで、自然に従い身体と魂との均衡を保ち、学びと知を愛して魂の運動を万有に似せて秩序づけ、神々から人間に与えられた最もよき生を最期までまっとうする生き方を示している。 これに対して、アリストテレスは「冷」と「乾燥」という二つの原理によって、人間にとどまらず生物の老化の諸現象をすべて説明する統一的な理論化を試みている。彼の老年理論は、大地と海の交替変化という大規模な自然現象を含め、「冷」と「乾燥」の二つの原理によって全自然の老化現象を一貫して説明する試みである。アリストテレスは自然世界に見られる多様な老化現象についての鋭い冷静な観察者であり、より普遍的な老年理論を構築しようとしている。しかし、その理論に従えば、身体の老化は知的な低下や衰弱を必然的にもたらすことになる。アリストテレスにとって「よき老年」とは、若い時代にはなかった新たな可能性が開ける老年ではなく、運にも恵まれ、老化による身体の苦痛や障害が少ないという消極的なものである。また老人の政治的・社会的位置づけについても両者の考え方には重要な違いがある。アリストテレスは老年になると知的能力が落ちるとする観点から、スパルタの長老制度を批判している。これに対して、プラトンは年長者の経験にもとづく思慮を重要視して、七五歳に至るまで国家の重要な役職につくことを認めている。彼らの老年観には、関心対象の異なりと彼らの心身観の相違に深く根ざした重大な差異と特質がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果の一部をまとめて、「老年と正義」というタイトルの著作として発表できたから。
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今後の研究の推進方策 |
古代哲学の老年論と老年の哲学の全体像を描くなかで、現代日本の長寿社会における生涯学習の課題についても、何らかの提言をまとめる研究を発展させたい。
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