今年度は二つの発表と、二つの論文作成を行った。 第一の発表は、日本哲学会での「『真理と方法』における言語の思弁的構造」(2012年5月:大阪大学)である。これまでのガダマー言語論研究のまとめとしての発表であるが、今回は特にアウグスティヌスの内的言語に関するヨハン・クロイツァーの解釈に基づいて、哲学的解釈学の普遍性要求の新たな側面を示すことができたことが成果である。第二の発表は、臨床実践の現象学研究会における「ケアの実践を考えるために」(2012年8月:大阪大学)である。この発表は主にメルロ=ポンティの言語論に依拠したが、言語の普遍的な開在性に関しては、ガダマーの言語論を前提としている。言語と行為に関して、それぞれ自己調整的なシステムが機能していることが示された。 論文は、『看護研究』(医学書院)での連載「看護における質的研究の前提と正当性」の第1回と第2回である。第1回(2013年2月)のタイトルは、「質的研究の前提と主題は何か」である。アメリカにおける看護研究の基本書ポーリット&ベック『看護研究』とバーンズ&グローブ『看護研究入門』においていずれも(分離された)個人が研究の前提とされ、その結果、「各人によって世界が異なる」という相対主義的な主張が唱えられており、研究の営み自体と自己矛盾していた。それに対し、我々は研究の前提として(ガダマーの)「言語性」を、その主題として「意味」を唱え、研究の実態に即した前提と主題の設定を提起した。第2回(2013年4月)のタイトルは、「言語について」である。今回は、ガダマーよりもメルロ=ポンティの言語論が中心となっているが、この論文の前提はガダマーの言語論である。両者の言語論をともに論じる研究は少なく、『看護研究』における我々の連載(全6回)は、独自の成果となるであろう。
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