研究概要 |
本研究の目的は,「自然の斉一性(帰納法の正当化)」,「自然法則の身分」,「因果関係の本性」,「未来時制命題の特質」という4つの具体的問題の検討を通して,未来という時間の存在論的身分を明らかにすることである。3年計画の1年目である本年度は,これらのうち,「因果関係の本性」と「自然の斉一性」の問題に取り組んだ。 論文「不在因果について」では,不在因果(不作為や生起しなかった出来事を原因・結果とする因果関係)を対象に因果関係の本性について考察した。出来事個体間の因果関係は出来事類型間の関連性を暗黙の前提とする。結果は原因だけでなく背景条件(産出条件の現存と妨害条件の不在)にも依存する。不在因果とは妨害条件の不在が原因として際立った場合の因果関係である。或る出来事が何であるかということの内に既に他の出来事類型との関連性が含まれている。因果関係とは世界と人間とが共同して作り出した秩序(出来事類型間の関連)である。 論文「自然の斉一性について」では,未来と知識の関係について考察した。自然の斉一性とは場所の違い・経験の有無・時間の違いによらず同じ自然法則が成り立つことである。空間的斉一性・認識的斉一性・過去に関する斉一性は「説明の良さ」や「自然の認識からの独立性」によって正当化できる。しかし,未来に関する斉一性は正当化できない。「既に過去になってしまった未来」の斉一性から「まだ過去になっていない未来」の斉一性を導くことは循環論証である。経験が消滅的・時間的であるのに対し,知識は持続的であり時間を超えようとする。未来に関する斉一性は知識が成り立つための条件である。しかし,未来が斉一的でなく知識が成り立たなくなる可能性は常にある。それゆえ,未来は或る意味で既知であり,別の意味でまったく未知である。 著書『哲学への誘い』では,出来事概念による時間様相(現在・過去・未来)の分析の概略を描いた。
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