研究概要 |
本研究の目的は,「自然の斉一性(帰納法の正当化)」,「自然法則の身分」,「因果関係の本性」,「未来時制命題の特質」という4つの具体的問題の検討を通して,未来という時間の存在論的身分を明らかにすることである。 3年計画の2年目である本年度は,「過去の経験から得られた知識を未来へ投射し,かつ,自らの未来の行為を意図する主体」である「心」の存在について考察した。さらに,本研究の背景としての20世紀英米哲学における形而上学の盛衰について調査を行った。いずれも,本研究の深化にともなって生じた新しい課題である。 まず,「心」の存在については,物質との関連性(心身問題)に焦点を絞り,デカルトの「物心二元論」について検討した。仮にデカルトが言うように「心の本質は『考えること』だけだ」としても,「この現実世界において私の心の存在がたまたま身体の存在に依存している」という可能性は排除できない。それゆえ,心を物質から独立させるデカルトの議論は妥当ではない。(この他,未来論および心身問題の一形態として「死後の生」について考察した。) 次に,形而上学の盛衰についてだが,20世紀初頭の英米哲学において論理実証主義や日常言語分析学派から厳しく非難された形而上学は今日「分析形而上学」として復活した。なぜ復活できたのか。それは,「検証原理そのものの不備」や「クワインの全体論が検証原理から形而上学批判の力を奪ったこと」,「ストローソンの記述的形而上学が日常言語分析へ形而上学を持ち込んだこと」,「クリプキによって,様相概念(必然・偶然・可能)が認識論的概念(アプリオリ・アポステリオリ)や意味論的概念(分析的・総合的)に還元されないことが示されたこと」などのゆえである。(この他,代表的分析形而上学者の一人であるジョナサン・ロウの4カテゴリー論について調査し,「自然法則の身分」や「因果関係の本性」について考察した。)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
未来について考察する際,現在や過去よりも一層,未来は人間の心と関連性が強いのではないかという見通しを昨年度の「帰納法の正当化」の研究から得た。そこで,今年度前半は心身問題に集中し,一定の成果を得た。今年度後半は,分析形而上学という大枠の元で「自然法則の身分」や「因果関係の本性」について考察する機会を得た。いずれも予想外の新しい方向であるが,研究が順調に進展してきた結果であると考えられる。
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