研究概要 |
未来という時間の存在論的身分を明らかにすることを目指して,「因果関係の本性」,「自然の斉一性」,「自然法則の身分」などの問題に取り組んだ。まず,不在因果の検討を通して因果関係の本性について考察した。出来事個体間の因果関係は出来事類型間の関連性を暗黙の前提とし,結果は原因だけでなく背景条件にも依存する。或る出来事が何であるかということの内に既に他の出来事類型との関連性が含まれている。要するに,因果関係とは世界と人間とが共同して作り出した秩序(出来事類型間の関連)である。次に,自然の斉一性(帰納法の正当化)の問題に取り組んだ。未来に関する斉一性は知識が成り立つための条件である。しかし,「既に過去になってしまった未来」の斉一性から「まだ過去になっていない未来」の斉一性を導くことは循環論証であり,未来が斉一的でなく知識が成り立たなくなる可能性は常にある。要するに,未来は或る意味で既知であり,別の意味でまったく未知である。さらに,研究の進展に伴ない,「過去の経験から得られた知識を未来へ投射し,かつ,自らの未来の行為を意図する主体」である「心」の存在について考察した。心を物質から独立させるデカルトの議論は妥当ではない。また,本研究全体の背景として,20 世紀英米哲学における形而上学の盛衰(論理実証主義者や日常言語学派による形而上学批判から今日の分析形而上学への変化)およびカテゴリー論(自然法則や傾向性の分析を含む)について調査をおこなった。
|