本研究では、医療機関の経済的な組織体としての側面に着目し、これまで医療者の専門職としての意思決定に関わる議論として捉えられる傾向にあった生命倫理・医療倫理の問題を、経営倫理をモデルとした医療機関の組織倫理の問題として捉え直すことにより、米国なので議論され始めているHSR(Hospital Social Responsibility、医療機関の社会的責任)という新しい概念の可能性を、具体的事例の収集をふまえながら検討することを目標としている。前年度までの成果をふまえて、医療機関の組織倫理上のジレンマを、医療機関に存在するステイクホルダー(患者、医師、看護師、地域社会、運営団体)への倫理的配慮という観点から捉え直し、「医療経営倫理」の視点から論じた発表原稿をまとめ、医療機関で口頭発表した。これによって、ビジネスとしての病院経営のあり方と、臨床に根ざした医療の実存的視点とを融合し、医療機関という独特の組織の望ましいあり方を問うことができた。医療者とのディスカッションも盛んに行なわれ、以後も、経営学者・倫理学者・哲学者に実務家が共同で研究する会議を定期的に開く算段もついた。
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