「証明」という概念に基づく意味論を一から構想し直すための基礎となる研究として、本研究では、非形式的な証明という概念(いわゆる形式的な証明はそれを反映するものではあるが、種として異なる証明)の解明に焦点を合わせ、そのような解明のための手がかりとして、最終年度である本年度は二つのアプローチを試みた。 一つは、論理的証明の有用性と妥当性とをどのように調停するかという古くからの課題にどのように答えるかというアプローチである。近年、この問題をめぐっては、数学における証明という概念を、公理的形式的証明の概念から解放し、証明技法の多様性、数学の雑色性を様々な形で明らかにしようという試みがなされている。本研究では、そうした動向を受け、そこでの知見を論理的証明の有用性の説明に応用できないかを検討した。 もう一つのアプローチは、ブラウワーのバー定理の証明そのものを分析することによって、「心的構成」としての証明が通常の形式的証明とどのように異なるものとして捉えられているか、とくにその証明でブラウワーが行っている証明のカノニカリゼイション(正規化、ただし通常のゲンツェン式の正規化とは異なる)が、当の証明がもつ心的構成としての側面をどのように利用しているのかを明らかにしようと試みた。これによって、心的構成としての証明のいくつかの特徴が明らかにされるはずである。これらの研究の成果は近い将来、論文として刊行する予定で、現在はその準備を行っている段階である。
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