研究課題/領域番号 |
22520033
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
長滝 祥司 中京大学, 国際教養学部, 教授 (40288436)
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キーワード | 身体動作 / 一人称的記述 / 二人称的記述 / 身体技能 / 心的傾向 / 訓練された観察者 |
研究概要 |
心についての総合科学である認知科学の台頭などで、心の研究に対する哲学独自の影響力は少なくなりつつある。こうした中で、哲学が心の科学に対して貢献が可能だとすれば、心の科学の新たな方法論を提案するといったことになる。本研究は、認知科学と現象学の哲学的な思考との有機的統合を目指す認知現象学の見地から、実験心理学が勃興して以来の方法論に纏わる問題に対して、独自の解決の道筋を示すことを目的としている。具体的には、身体動作に関する一人称的、二人称的観点からの記述に科学的データとしての身分を与えることを目指している。22年度は、「現象学を認知科学に応用するにあたって、現象学の方法論と概念装置を本研究の観点から精査、再鋳造すること」と「その成果を踏まえ既存の実験パラダイムに対して認知現象学的方法論の応用を試みること」の一部を中心に、課題を遂行した。23年度は、後者を全面的に展開し、とくに、作業療法士(作業療法士を心的状態や心的傾向を身体動作から読み取る「訓練された観察者」の素養をもつ者であるという仮説で実験を構築している)を対象とする実験を大規模に行いデータを蓄積し分析した。加えて、アスリート(サッカー選手)の身体動作(身体技能)についての一人称的記述をデータ化することを行った。これらの研究の主たる成果として、SPMの学会誌に論文"On What Mediates Our Knowledge of the External World"として発表したほか、SPM The 14th Annual International Conference、およびThe Conference of Postphenomenology and the Future of the Philosophy of Technologyにおいて、口頭発表を行った。 なお、旅費が今年度予算全体の90%を超えているが、これは、研究遂行に不可欠なデータ収集、実験、共同研究者との会議、海外での成果発表のために多くの予算を割り当てる必要があったためである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の最重要課題は、作業療法士への系統的な実験とインタビューの遂行、そこでの成果を論文のかたちにまとめることであった。今年度は前半にこれを大規模に実施できたことに加えて、後半には、この実験に対するコントロール実験も行うことができた。そして、これらの成果を年度末の国際学会で発表した。加えて、サッカー選手の身体技能を録画し、インタビューによってその記述を行ってもらうことにも着手することができた。以上が、「研究の目的」がおおむね順調に進展していると評価することの根拠である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は昨年度の実験を引き続き積み重ね、データ記述の概念化について、現代の現象学や認知科学を参照することによって、より洗練された心の科学の方法論を構築することである。このためには、映像分析等の実験方法自体のさらなる改良が必要になる。また、今年度は、この研究計画の最終年であるので、3本の論文(1本は国際学会誌、1本は国内誌、1本は論文集の一部)と2回の国際学会での発表によって成果をまとめていく。
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