本研究の課題は、フッサールの身体論の変遷と転回をたどることであり、特に彼の中期から後期・最晩年にかけての身体論がいかなる内在的動機付けに基づいて転回したのかを明らかにするものである。 本年度は、まずフッサールの方法論である超越論的還元について、彼の中期から後期にかけてのその展開を探求した。物知覚のなかで還元を遂行し、その主題的な物知覚に対し、それを支えている非主題的な世界の地平性や地盤機能、さらに身体機能や自我機能を課題とした。フッサールが、以上のような非主題的で、また遂行上にある機能自身について、いかにして還元が可能なのか、その方法的な妥当性を改めて問うた。 また身体について具体的な事象分析として、身体の行為のなかで、「生き生きした時間」のもとでのキネステーゼ(運動感覚)の機能を分析した。フッサールの時間論研究においては、自らを対象化しあとから振り返ってみる自己反省が、時間の流れのなかではその機能を捉えられないという反省の限界、それにもかかわらず対象化された自己とは異なる仕方で自己が覚知されているという事象は、すでに定式化されている。本研究はさらに行為の遂行という具体的事象のもとで、この反省の解明に着手した。またこの分析に関わるが、フッサールは能動的な知覚においては機能する自我と身体機能とをいわば同一視しているのに対して、受動的な「世界の開示」から両者の機能を再規定したことを示した。 さらにフッサールはキネステーゼを「私はできる」という自我の能力性として規定し直しているが、この場合呈示された「私」が、フッサールの自我論のなかでいかに位置づけがなされるかを探究した。
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