吉永の本研究は、春秋経は春秋左氏経が原型で(公羊経や穀梁経はこれより派生)、その「春秋左氏経」は、解経と凡例等以外の史伝文として今本左伝に残存する「原左氏伝」テキストから、抽出・編作の手法に拠り成立したものであるとの仮説を提示する。この仮説では全春秋左氏経文は、(1)抽出文、(2)抽出的編作文、(3)編作文、(4)無伝の経文という四種類型文に分類し得る。隠公~文公期の全経文の分析では抽出系即ち(1)抽出文(23.9%)と(2)抽出的編作文(25.9%) とが約49.8%、編作系即ち(3)編作文(17.7%)と(4)無伝の経文(32.5%)とが50.2%との結果となった。この結果は吉永の仮説を傍証するものと言える。またこの「原左氏伝」と「春秋左氏経」との関係は、『資治通鑑』と『資治通鑑綱目』との関係に比定し得ることを明らかにした。
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