本研究の成果は以下の三つに大別できる。 第一に、PHOTOSHOPを使用した画像解析および上海図書館に赴いての実見によって、当図書館蔵の紙背文献である陳堯道『大学』『中庸』五注を解読した。さらにその成果を、2011年、第2回朱子学国際学術シンポジウム(白鹿洞書院)、2012年、第3回朱子学国際学術シンポジウム(岳麓書院)および日本中国学会第64回大会(大阪市立大学)において発表した。 第二に、地方志や書誌目録、個人文集などに拠って、紙背文献の著者である陳堯道個人の事績およびその家系を調査した。その結果、陳堯道とその一族は、地方官僚のみならず、経学者としても功績があったことが明らかとなった。 第三に、五注および地方志の調査によって、陳堯道が『大学』『中庸』五注を作成した動機を解明した。今回発見した五注の序には、陳堯道は1247年から3年間、南安軍(江西省.州市大余県)軍学教授に就任し、その際学生の求めに応じて五注を作成した、と記されている。当時南安軍は朱子学盛行の地として知られており、以上を踏まえて、陳堯道が五注を作成したのは、道学を信奉する学生の要請がきっかけであったという結論を導き出した。
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