本研究は、道教儀礼の伝統の中で、六朝時代に成立した『霊宝経』、特に『太上洞玄霊宝無量度人上品妙経』(『度人経』と略称)に基づき、宋元時代の改変を経て現代にまで継承されている霊宝儀礼の伝統を研究の対象とし、この伝統の中国宗教史における意義について、歴史的現代的視点から解明することを全体的目的とする。 平成22年度における研究の実績としては、まず論文として、台湾の霊宝儀礼において儀礼空間である道壇に掛けられる神の姿を描いた神画の内容を、宋から明の時代における霊宝儀礼の存思と関係させて、道士を主体とする内外の呼応の理論に位置づけて解明した。また学会報告として、中国福建の厦門に赴き、報告の中で南宋の王契真『上清霊宝大法』に対して行ってきた解読作業の成果について、解読の方法と当該文献の特徴の2点を中心に問題提起を行って、中国人研究者との間で意見交換を行った。福建ではまた泉州系の霊宝経典の収集も行うことができた。 また台湾の台北と高雄に赴き、台湾の霊宝儀礼の台湾内部でのヴァリエーションを調査するとともに『度人経』の誦経の実際について、道士の杜永昌氏から聞き取りを行い、音声記録とその文字化のための資料を積み重ねることができた。特に『度人経』の経文を誦経する際の方言による音声について十分な資料を獲得することができたのは大きな成果であった。今後は全体的目標に即して、台湾における継続調査や、文献面での福建および浙江等の資料の調査を拡充する必要があると考えているところである。
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