本研究は、清朝中期以降の寧波、端的に言えば「ポスト全祖望の時代の寧波」において、文化伝統(特に地域に根ざしたそれ)はいかに保存・継承されていったのかを検証することを目的としている。今年度は、申請者が平成21年度まで受けていた科学研究費「寧波における知の営みとその伝統-学脈・宗族・トポフィリア-」の成果を引き継ぎつつ、ポスト全祖望の時代へと研究の視点を転換させる第一歩の年度とすることを目指した。その初探として、8月24日から9月2日にかけて、中国浙江省杭州市と江蘇省揚州市・南京市等で現地調査を行い、全祖望および彼が生きた時代・土地に関する文化地理学的知見の獲得に努めた。具体的には、揚州市において、全祖望のパトロンでその葬儀にも深く関わった揚州馬氏の叢書楼に関する現地調査を行うとともに、馬氏に代表される塩商の文化活動に対する認識を深めた。また、江南地方の文化の中心である杭州市・南京市に関して、文化遺跡の保存状況について調査を行うとともに、当時の主たる交通手段である京杭運河に関する知見も獲得した。さらに、全祖望が遺した記録・史料の性質を明らかにすることを目指し、全祖望における「鈔写」という行為の意味について考察を加え、その成果を「全祖望と鈔書の精神史」と題して全国学会で発表した。なお、平成23年度は、勤務校のサバティカル制度を利用し、中国の浙江大学に滞在し、そこを基点にして本研究を遂行することになつたので、その準備作業も今年度行った。
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