最終年度であり、清代中期以降の寧波に於ける文化保存の精神史に関する研究を前年度まででかなり仕上げることができたので、25年度は、ここまでの研究で扱うことができなかったテーマを意識的に掘り下げた。 まず、「潘平格の生涯と思想」という論文を、平成25年8月末に東洋史研究会からの依頼を承けて投稿した。同論文は、平成26年9月に刊行される『東洋史研究』に掲載される予定である。潘平格は寧波慈渓の人であったが、證人書院において黄宗羲の弟子の一部を魅了したため、黄宗羲から猛烈な攻撃を受けた。そのような潘平格の生涯と思想を通観することを主眼とした同論文において、明末清初寧波地域における彼の思想が後の時代にどういった形で、細々とした形ではあれ伝承されていったのかを分析した。これまでは全祖望ら後世まで熱心に語り継がれた思想家に関わる文化保存の様態を分析してきたが、本論文では、「忘れられた思想家」に焦点をあわせ、地域に於ける排除の力学をも検討した。 また、「羞恥的倫理学」と題する学術講演を国際シンポジウムにおいて行った。このシンポジウムは、比較文化的視野から儒学倫理を総合的に検討する学術会議であり、宋明理学における「羞恥」をめぐる議論の現代哲学的意義を考察する研究発表となった。時間の都合上、寧波地域の思想家の言説までをも盛り込むことはできなかったが、報告の構想自体は、上記の潘平格論文を執筆した際に、潘平格の資料に触発されて構築されたものである。また、申請書に記した「明末清初と清末民国初を架橋する」という点も意識しつつ報告を作成した。 以上の研究成果により、前年度までの研究で手薄であった部分を補い、期間全体として総合的で重層的な研究を遂行することができたと考えている。
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