研究課題/領域番号 |
22520053
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研究機関 | 二松學舍大學 |
研究代表者 |
種村 隆元 二松學舍大學, 国際政治経済学部, 非常勤講師 (90401158)
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研究分担者 |
永ノ尾 信悟 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (40140959)
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キーワード | インド哲学 / インド密教 / 葬儀 / ムリタスガティニヨージャナ / パドマシュリーミトラ著『マンダラ儀軌』 / タントラーローカ |
研究概要 |
1.平成23年度の研究会において、『ムリタスガティニヨージャナ』に引き続き、インド密教の葬送儀礼を規定するパドマシュリーミトラ著『マンダラ儀軌』の最終章の校訂テキストを検討した。この二文献は同じ『秘密集会タントラ』を権威としながらも、葬儀の手順や茶毘後の遺体処理等において違いが見られることを確認した。さらに、密教と密接な関係をもつシヴァ教の葬儀を規定する『タントラーローカ』「死者救済のための入門儀礼」並びに「葬儀における入門儀礼」の章を検討した。検討の結果、葬儀に際して身体から離れた死者の魂(仏教では意識)を再び死者の身体に引き入れ、入門儀礼を授け,良き生存領域に送り出すヨーガの枠組みが共通していること、またその枠組みの中に教理の違いが反映されていることを確認した。 2.『ムリタスガティニヨージャナ』に言及される,輪廻の主体としての「識」に関する調査を継続した.具体的には,死者の蘇生と中有の入胎とは生命を宿らせる点で共通するという観点から,『倶舎論』における中有の入胎の記述を中心に検討した.その結果、識を形容する「真っ赤な」という語が、経血のみならず性的興奮を表し、さらにそのことが中有と同一視されるガンダルヴァと関係する可能性が見えてきた。 3.ヴェーダ文献の葬送儀礼の新層に属するテキストの分析を行った。古層に属する文献群の記述する葬送儀礼と比べ共通した新しい要素を示しており、儀礼の変容を明確に示すことがわかった。ヴェーダ期の葬送儀礼は遺体の火葬が中心であった。ポスト・ヴェーダ期の儀礼では遺体の火葬は簡略化され、記述の中心は死者の霊の礼拝儀礼が中心となっていく。死者の霊の礼拝儀礼をさらに分析し、現在にまでいたる葬送儀礼の変容の見通しを得つつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究会において密教の葬儀文献ならびにシヴァ教の葬儀文献を検討することにより、この両者の共通点ならびに相違点が浮かび上がってきた。それにより中世インドにおいて、密教とシヴァ教が共通の実践体系のもとに発展してきたかの証拠の一つを示すことができている。
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今後の研究の推進方策 |
密教とシヴァ教の葬儀の共通性といったものがある程度見えてきており、またその両者と両者に先行するヴェーダの葬送儀礼とのいくつかの共通点が確認できる。しかしながら、ヴェーダの葬送儀礼と密教・シヴァ教の葬送儀礼の間には質的な差異があるように考えられる。今後は、この差異を埋める過渡期の資料も考慮に入れながら、密教・シヴァ教が、先行する要素を取り込みながら、いかに独自に葬儀の体系を整えていったかにも焦点を当て、今後のインドにおける葬送儀礼研究の資料を整えたいと考えている。
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