研究課題/領域番号 |
22520054
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
辛嶋 静志 創価大学, 国際仏教学高等研究所, 教授 (80221894)
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キーワード | 仏教漢文 / 中古漢語 / ガンダーラ語 / 般若経 / 八千頌般若 / 支婁迦讖 / 支謙 / 道行般若経 |
研究概要 |
(1)パキスタンで新しく発見された紀元後一世紀に遡ると推定されるガンダーラ語『八千頌般若経』写本を、ベルリン自由大学のHarry Falk教授と共同研究した。残存する写本の半分に当たる部分の成果を『創価大学・国際仏教学高等研究所年報』第十五号(2012年3月)に発表した。ガンダーラ語写本と最古の漢訳、支婁迦讖訳『道行般若経』(紀元後179年訳出)を逐語的に比較したものである。この研究によって、支婁迦讖訳が、ガンダーラ語写本に非常に近いこと、またその原語がガンダーラ語であることがわかった。しかも、鳩摩羅什訳『小品般若波羅蜜経』(408年訳出)以降の漢訳や梵本・蔵訳にあって、支婁迦讖訳やその"焼き直し"である支謙訳(西暦222-257年訳)、竺佛念訳『摩詞般若紗経』(4世紀後半訳出?)に欠けている部分や表現が、ガンダーラ語写本にも欠けており、これらが後世の"水増し"であることが明らかになった。 (2)支謙訳『大明度無極経』(西暦222-257年訳)の校注本の作成をつづけた。また同時に、漢訳七種(支婁迦讖訳・支謙訳・竺仏念訳・鳩摩羅什訳・玄奘訳二種・施護訳)と梵本・蔵訳・梵本英訳を対照したTrilingual Editionを作成しはじめた。これらの作業を通じて、支謙訳・竺仏念訳は支婁迦讖訳『道行般若経』の"焼き直し"であることが、明らかになった。漢語の歴史研究という視点からみると、この"焼き直し"は、漢語の変遷に関する貴重な材料である。支謙や竺仏念がどのように支婁迦讖訳を書き改めたかに注目すれば、後漢から晋代にいたるまでの言語の変遷を見ることができる。この視点から、中国語と日本語で論文を執筆した(中国語は台湾『中正大學中文學術年刊』第18期;日本語論文は印刷中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ガンダーラ語写本と支婁迦讖訳の対照研究はほぼ達成でき、残り半分も年度内に出版できる。一方、『大明度無極経校注』(約500頁)作成は、漢訳七種と梵本・蔵訳・梵本英訳を対照したTrilingual Edition(おそらく3500頁以上)のプロジェクトに発展し、規模が大きくなったので、年度内に出版するのは難しい。しかし、『大明度無極経校注』の半分程度は出来上がったおり、来年には出版したい。
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今後の研究の推進方策 |
『八千頌般若』は大乗仏教の基本テキストである。多くの大乗仏典がその影響を受けて成立している。この経典の生成・発展・変遷を明らかにすることは、とりもなおさず大乗仏教の生成・発展・変遷を明らかにすることになる。この視点に立脚し、今年度も引き続き、『大明度無極経校注』を執筆すると同時に、国内外の研究者の協力を得て上記『八千頌般若』Trilingual Editionのプロジェクトを推進したい。
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