(1)パキスタンで新しく発見された紀元後一世紀に遡ると推定されるガンダーラ語《八千頌般若経》写本を、ベルリン自由大学のHarry Falk教授と共同研究した。残存する写本の半分の成果は平成23年度に出版したが、残り半分に当たる部分の成果を『創価大学・国際仏教学高等研究所年報』第十六号(2013年3月)に発表した。ガンダーラ語写本と最古の漢訳、支婁迦讖訳『道行般若経』(紀元後179年訳出)を逐語的に比較したものである。この研究によって、支婁迦讖訳が、ガンダーラ語写本に非常に近いこと、またその原語がガンダーラ語であることがわかった。さらに《八千頌般若経》のテキスト自体にも、それがガンダーラ地方で成立したことを示している記述がある。これらの新発見に基づいて「《般若経》はガンダーラ地方でガンダーラ語で創られた」という英文論文を上記雑誌に発表した(2013年春、ミュンヘン大学でこの内容の講演をし、好評であった)。 (2)支謙訳『大明度無極経』(西暦222-257年訳)の校注本ならびに漢訳七種(支婁迦讖訳・支謙訳・竺仏念訳・鳩摩羅什訳・玄奘訳二種・施護訳)と梵本・蔵訳・梵本英訳を対照したTrilingual Editionを作成した。これらの作業を通じて、支謙訳・竺仏念訳は支婁迦讖訳『道行般若経』の“焼き直し”であることが、明らかになった。漢語の歴史研究という視点からみると、この“焼き直し”は、漢語の変遷に関する貴重な材料である。支謙や竺仏念がどのように支婁迦讖訳を書き改めたかに注目すれば、後漢から晋代にいたるまでの言語の変遷を見ることができる。この視点から、英語で論文を執筆し、上記雑誌に発表した。
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